
「結局、他人でしょ?」
カノジョの口から飛び出した名言である。
そう言われてもこっちとしては何も言い返せず、
「むぅーー」
とか、
「ふぅーむ」
とかいう音を発することしか出来ない。
「異動になって引越しすることになったのだけど、引越しの荷物に財布を入れて送ってしまった。」
「だから5万円貸して欲しい。」
という電話を友人から受け、ほいほいと金を下ろして待ち合わせ、
「車の鍵も送ってしまったからそれを送るためにやっぱりもう少し貸して欲しい。」
と頼まれ、結局10万円を貸し、タクシーに乗り込む友人を見送った。
自分は、その人を信用していたからである。
それが1か月ほど前の話である。
その後しばらくして、その友人は異動になったわけではなく、
お店を辞めたのだということを、その店のスタッフから聞くことになる。
「あれれ。」
と思って、唯一の連絡手段である携帯に電話をしてみると、おなじみのメッセージ。
「ただ今電話に出られません。」
「電源が入っていないか、電波のつながらないところに・・・」
おいおい。
金を貸した日、カノジョにその話をしたら、ずいぶん驚かれた。
名言まで飛び出す。
「結局、他人でしょ?」
俺と違って人間の見極めに経験豊富というか、
押さえてるとこは押さえてる発言である。
よくよく考えると、どうやら心配してくれているようである。
それにしても、連絡がない。
そういえば、
「12月15日くらいにまた関西に戻ってきます。お店の引継ぎとかあるんで。
お金はその時に帰す形でいいですか?」
と言っていたが、そもそも、その仕事自体を辞めているらしいのだ。
引継ぎなんてあるわけない。
その感じの、少しあせり始めた頃に、カノジョが言う。
「あれ、お金返ってきたの?ふふふ。」
返ってきてないのなんてわかってるわよ、という表情。
それにしても、あのこはこういうカンがすごくいい。
微妙に狼狽した俺はつい、
「うん、返してもらったよ。」
と答えてしまった。
俺にも意地のようなものがあるのだ。
その返事が意外だったのだろう(そりゃそうだ、うそなのだ)
カノジョは少し驚いていた。
それからしばらく、色々考えた。
金を貸した相手が結局どういう人間だったかということについては、
その人自身が借り逃げしても平気でいられるということなので、
それはまあ、非常に気の毒な人間だということだろう。
こういう時の人間の想像力というのは強烈だ。
シェークスピアのオセロー状態。
悪い方向へ、悪い方向へ考えてしまう。
「やっぱり悪いやつだったのだ。
もしかしたらヒトとか殺してるのかもしれない。
そもそも、借金の話を出す数日前に、異動の電話をくれてた。
金を持ち逃げするだけだったらそんな電話はそもそも必要ない。
そうするとあれも信頼させるための計算か!」
などと勝手に妄想を楽しみ、がっかりしていたりした。
問題は、
このままでは他人を信用できなくなってしまうということだ。
普段、
ハラグロだなんだと言われているが、
結局は田舎育ちの正直者である。
(↑ほんとにそういう人は自分ではそうは言わない)
貸した金が返ってこないなんて、
完全に想定外なのだ。
信用できると考えていて、
その人が困っていたら、
できれば助けてあげたい。
だから、今回金が返ってこなかったら、
自分の中で失われるのは、
10万円などではなく、
ヒトを信頼するということ、
となる。
そして約束の12月15日。連絡はない。
うーむ、これは困った。
と思っていたら、16日、携帯が鳴る。
「あははー、元気ですかー?」
「電話もらってたみたいで、すみませんー。」
「あれー、心配させちゃってたんですかー、すいませんー。」
少々誇張しているが、そんな感じ。
ああ、そうだった。
このヒトはこういうタイプのヒトだった。
悪い人なんかではなく、たまにすっぽーんと忘れたりするのだ。
要は、割といい加減なのだ。
忘れてた。そういうとこが俺とそっくりなのだった。
でも、正直、ほっとした。
これからもヒトを信用できるのだ。